洗濯できないからこそ美しい。小泉今日子のステージを彩った33枚のアートTシャツ
音楽のステージで一度だけ袖を通され、二度と洗われることのないTシャツ。代々木のスタジオで幕を開けた展示は、ファッションとアートの境界線を軽やかに飛び越えていた。

ステージのためだけに生まれた「一度限り」の服
ライブのステージで着用される衣装は、遠く離れた客席からの視線や強い照明を浴びることでその役割を全うする。しかし、東京・代々木のスタジオで開催されている「ONCE ON - KK ON STAGE, Ed ON TEE -」に並ぶ服たちは、普段の衣装とはまったく異なる成り立ちを持っている。
展示されているのは、今年1月から5月に行われた小泉今日子のツアーのために、アーティストのエドツワキが手掛けた全33点のアートTシャツだ。タイトルにある「ONCE ON」という言葉が示す通り、これらのTシャツはペイントやコラージュが施されているため、洗濯することができない。つまり、ステージ上で文字通り「一度きり」着用されることを前提に仕立てられたアートピースなのだ。
会場には、過去のフォトTシャツをベースにしたものから、武道館のステージのためにスタイリストの山本マナが手掛けた衣装に合わせて真っ白なTシャツにペイントを施したものまで、色とりどりの作品が並んでいる。武道館用の2枚にはブラックライトで光る演出が取り入れられており、暗闇の中で鮮やかに浮かび上がる仕掛けが施されていた。遠くの客席からは細部まで見えなかった筆跡や絵の具の厚みが、目の前で静かに息づいている。

スチームアイロンから始まった展示室の親密さ
小泉今日子とエドツワキの親交は約40年に及ぶという。今回の企画も、ツアー直前の1月に交わされた「ステージで着るTシャツに絵を描いてくれない?」という小泉の言葉から、軽やかなノリでスタートした。デザインの細かな指定はなく、過去のフォトTシャツなどを送り、自由に描くという大喜利のようなプロセスで生まれた。
この展示の魅力は、作品そのものの迫力だけでなく、制作の背景にある二人の親密な関係性が展示空間の隅々にまで染み出している点にある。来場者全員に配られる図録用の撮影では、小泉自身がスチームアイロンがけを担当し、展示の設営作業にも直接関わった。
図録には「乾いたらパリッパリで、よく着てくれました」「ペイントTはメチャ固いです」といった制作時の飾らないエピソードが収録されている。一度乾いて固くなった絵の具の質感や、それをそのまま纏ってステージに立ったパフォーマーの覚悟と遊び心が、ユーモアを交えて共有される。
眺めるだけで終わらない、手元に残るカルチャーの欠片
会場に展示された全33点のアートTシャツは、会期中に来場者を対象とした抽選販売が行われ、当選者には額装された状態で届けられる。服として着用する日常着ではなく、誰かの記憶や情熱が刻まれた絵画のように部屋に飾る存在へと変化する。
会場限定のオリジナルグッズとして、展示作品のイラストをプリントしたTシャツやポスター、缶バッジなども用意されている。入場料には全作品の解説やコメントが収められた図録が含まれており、展示を見たあともその余韻をじっくりと持ち帰ることができる。
日常着の象徴であるTシャツを、洗えない一度限りの表現媒体へと反転させる試み。代々木のスタジオで出会う33枚の服は、カルチャーを身に纏うことの楽しさと、自由な表現への敬意を思い出させてくれる。
MIREORI TALK

洗えないTシャツって発想が新しすぎる!武道館で暗闇の中で光る仕掛けとか、生で見てみたいな。グッズのオリジナルTシャツも気になるし、代々木なら行きやすい!

40年の付き合いがあるからこそ、あの軽やかなコラボが成立するんだろうね。小泉さん自身がスチームアイロンをかけて設営にも関わったっていう裏側まで含めて、素敵な展示だな。

一度しか着られないからこそ、ステージの時間を閉じ込めたアートピースみたいだよね。図録付きで入場料2500円なら、作品の背景までじっくり知りたい人にもよさそう。


